油壺ボートサービス(以下、ABS)の代表、日髙芳子さんと夫の博人さんが所有する名艇、アレリオン エキスプレス28の艇紹介その2。米ブリストル出身のデザイナー、ナサニエル・ヘレショフが設計したデイセーラー、アレリオンの歴史をひも解くとともに、日髙さんたちのお孫さんが笑顔でセーリングする様子をお伝えします。
※本記事の「その1」はこちら
◆メインカット
photo by Yoichi Yabe | ABSの桟橋を離れ、ゆっくりと入り江を出ていく〈アレリオン〉。クラシカルなデイセーラーのフォルムと油壺湾の景観は、不思議なほど親和する
〈ALERION〉ALERION EXPRESS 28
〈アレリオン〉(アレリオン エキスプレス28)
ALERION EXPRESS 28
●全長:8.61m
●全幅:2.49m
●喫水:1.37m
●排水量(バラスト含む):2,585kg
●バラスト(鉛):998kg
●セールエリア:32.70m2
●設計:カール・シューマッハー
●建造:アレリオンヨット
●エンジン:ヤンマー2YM15
OWNER
日髙芳子さん(左) Yoshiko Hidaka
日髙博人さん(右) Hiroto Hidaka
油壺ボートサービス代表の日髙芳子さん(手前)と、夫の博人さん。芳子さんの両親、福留清彦さん/圭子さんが昭和30年代前半に創業した修理工房を現在も引き継ぐ。2017 年にアレリオン エキスプレス28に出合う。現在は7人のお孫さんたちと一緒に、油壺沖の海に帆を揚げている
名艇、アレリオンの魔力
ここでアレリオン エキスプレス28(以下、AE28)について簡単に解説したい。米ブリストル出身のデザイナー、ナサニエル・ヘレショフが1912年に設計したのが26フィートのアレリオンIII。このセンターボード艇はヘレショフ自身のお気に入りとなり、1989年には米国のデザイナー、カール・シューマッハーがAE28としてリメイク。その後、ゲイリー・ホイトが洗練させた。水面上はそのままに、アペンデージだけ現代的に改装したAE28は、35年経った現在も、当時と変わらぬ美しさを継承しているのだ。
AE28の誕生当時、米アナポリス・ボートショーでゲイリー・ホイトと、当時の建造所であるピアソンヨットの創業者エヴェレット・ピアソンに、海洋写真家の矢部洋一さんと共に会いに行ったイラストレーターのTadamiさんも「このジャンルは日本人に受け入れられる」と確信したそうだ。まさにデイセーラーの代名詞とも言える一艇、それがアレリオンシリーズなのである。
前置きがちょっと長くなって申し訳ないが、そんな素敵な〈アレリオン〉で出艇しよう。お孫さんたちは何も言われなくても艇に乗って作業をする。時に遊びながら、時に真剣に出航準備を手伝った。「タッキングとか、ジャイビングとかね、難しいことは教えないんですよ。ほら、舵持ってごらんって。腰が強くて安全、乗っていれば自然とセーリングを教えてくれるヨットです」と博人さん。
志子さんの掛け声でセールアップ。最初に舵を持った湊人くんは、なかなかのハンドリングを見せ、颯輔くんのセールトリムも見事なものだった(3人は日髙さんのお孫さん)。その光景は、まさにアーサー・ランサムの小説『ツバメ号とアマゾン号』。セーリングを終えて着艇し、艇を洗いながらふざけて水をかけあう様子までも、見ているだけでなんだか胸が温かくなる。
「恵まれた環境だと思います。この場所に桟橋があって〈アレリオン〉があって。今は夏休みだから朝からにぎやかですけど、学校が始まった平日でも孫たちが帰ってきて風がよければ、じゃあヨット出そうか、って」と、芳子さん。先ほど、ヘレショフデザインのヨットがお好きと言っていましたが、アレリオンにこだわった決め手とは?
「子どものころから見ていたヨットって、やっぱりこういうイメージなんです。東海岸で浮いてそうな、クラシカルな。アレリオンは見た目はクラシカルだけれどもキール形状が現代的だったり、帆走性能も安全性もあって・・・。まあ、なんていうんでしょうね。きれいじゃないですか。何よりも、美しい」
お孫さんたちが桟橋で遊ぶ様子を見ながら話してくれた芳子さん。ちらりと拝見したその横顔は深い優しさと幸せに満ちていたのでした。
パワフルなリーチングで美しく波の上を滑る〈アレリオン〉。これも、もちろん子どもたちだけで帆走している。「難しいことは教えません。まずはヨットを楽しんでもらえたら」と博人さん
夏休みはもちろん、平日でも風がよければ放課後に〈アレリオン〉でサンセットセーリング。素晴らしい環境だ
舫(もや)いをとり、清水で艇を洗う。セーラーの素養を蓄える志子さんの未来が楽しみです
志子さん(左端)6歳、湊人くん(右端)4歳のとき!
photo by ABS
景色のよいABSのサロンルームでお話を伺った。お孫さんたちとセーリングを楽しむ芳子さん(右)と博人さん。その技術と思いは次世代に継承されているのである
子どもたちが操船する様は、まるでアーサー・ランサムの小説『ツバメ号とアマゾン号』の挿絵。もちろん作中の艇とはサイズが違うが、なんともうれしい気持ちになってくる光景なのだ
(文=中村剛司/Kazi編集部 写真=矢部洋一)
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